歴史小説2023.04.03 月 10:54
「人間てもんは生れた時から罪は罪と知ってるんだよ」
甚右衛門が云った。
「3歳の餓鬼でも、自分のしたことがいいことか悪いことか、ちゃんと知ってるもんだ。
そうして罪を犯せば罰されることも知ってる」
「それが罰をうけねえとどうなるかね」
一同、考えこんだ。
「儲けた、と考えると思うか。 とんでもねえ。奴は馬鹿にされたと信じるんだ」
「まさか」
求馬が思わず云った。
「それがそうなんだよ。侮辱された。はっきりそう思うんだ」
求馬は何かいいたそうにして、杢之助を見た。 仰天した。しきりに頷きながら聴いているのだ。
「お前さん、どうやら悪だったことが一度もねえようだな、求さん」
「妙ないい方だが、悪には悪の誇りがある。その誇りは、罰を受けることで初めてはっきりするんだ。どんなに悪さをしても罰を受けねえんじゃ、誇りはずたずただよ。生きているのもいやになるだろうなァ」
コメントを残す