YAMAGAMI KISEN CO., LTD.

うわぁ…うちの船の上で釣りをしてる人が居る

 

これは困った…

 

 

 

 

 

「釣りくらいいいじゃん」と思うかもしれない。

 

だけど、長い間船で仕事をしていると

船は家と同じになる。思い出も愛着も家と全く同じ。

 

家の庭で他人にBBQされても嫌でしょ？

 

 

 

ルアーフィッシング、エギングならまだ可愛いものの、このおじいさんは汁たっぷりのサビキ釣りを嗜んでおる。(ヤバさ度↑)

 

 

 

 

釣り人は「汚したら洗い流しとくよ。潮水で」

と考える人が多い。

 

 

我々はそのゴミひとつ

海水一滴すら嫌って

 

帰航する度に水道代をケチらず真水で洗い流してる苦労がある

 

 

 

おじいさんに言う

「すいません、船の上ではちょっと…」

(お爺さん。はっきり言わないよ。でも察してわかるよね？)

 

 

 

 

相手に普通の反応を期待してしまう

よく釣りに来てる外国人ですら、この一言で

 

「すいませーん」といって爽やかにに降りてくれる

 

それだけでいいんだ。

その一言だけでこちらは救われる

 

 

 

ただ、この爺さんはちがった

 

 

明らかに不機嫌そうに

 

「お、お、ん」と言っただけだった。

 

 

ん？日本語は？謝罪は？

 

釣りを辞めない

 

おかしい…こいつはおかしいぞ

 

 

とんでもない生き物を船に乗せてしまっている

 

 

 

冷静に冷静に、もう一度

「船の上で釣りは…すいません」

しっかり伝え、じっと睨む

 

 

 

そして機関場に潜り

主機の始動に取り掛かる

 

 

 

 

10分後…

 

 

 

 

 

残りはセルを回すだけで始動できるタイミングで

 

 

嫌な予感が頭をよぎる

 

 

 

もしかしたら、いや、おそらく…

 

間違いないか…

 

 

あの系統上.…その可能性が高い。

 

あの爺さんまだ釣りをしてたらどうする…？

 

この予感のおかげで、まだ俺を冷静にさせた。

 

 

 

機関場から上がると案の定、まだ釣りをしている。

 

しかもサビキカゴに餌を詰め替えてる最中だった

 

 

今度ははっきりいう

 

「船の上で釣りはやめてください」

(ここまで言わせるなよ…)

 

 

さぁ、相手は何を言う？

 

 

 

 

「おん、あと一投させて」

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

 

う、う、うぁぁぁぉぁぁっ！

あ、あ、あ？

ブチギレそう…いや、ブチギレてる。

 

なんだこの生き物

タメ口？なんでタメ口？何様？

俺、舐められとるん？

うん！！舐められとる。

 

 

この生き物は他人の庭で勝手にBBQをして

食い終わるまで待ってくれと言ってるのだ

 

 

 

 

みなぎる感情！

暴力というのはこういう時に発動するのだろう。

殴って良いよね？よっしゃ。殴ろう！

それとも海に突き落とすのも悪くない。

 

 

110という手段も頭をよぎる。

だけど、通報するのはめんどくさそう。

こちらは今から仕事で出航するんだよ。

仕事なんだよ。

日曜日なんだよ。

いい潮で行きたい。

 

 

 

殺意を抑えもう一度機関場に戻り主機を始動する。

 

もう、あの爺さんを尾道につれていく

 

 

 

 

 

 

落ち着け落ち着け

 

 

 

 

 

そのとき同船者が荷物を持って乗り込んできた

「おはようございまーす」

 

 

 

 

仲間がきた、それだけで落ち着いていく

怒りのボルテージもおさまっていく。

 

 

 

主機を始動させ暖機運転。

 

陸に上がるとさっきの爺さんが寄ってきて

 

「船の出すんじゃね？すいません」

と言ってきた。

 

 

 

何を今更？と思ったけど、

その「すいません」一言だけでいいわけで

その一言だけだよ。

それだけでこっちは救われるわけで、今までのことを全て帳消しにできるんだよ

 

 

 

 

 

 

感情の衝動は本当にしんどいですね。

 

俺が短気なだけかなぁ

 

 

 

2度と起きないでほしい。